障害福祉サービスの事業所では、利用者さん本人に向けた説明資料を作る機会が日常的にあります。行事の案内、工賃の計算方法、送迎時間の変更、避難訓練の手順、利用料の説明。どれも「読んでもらえなければ意味がない」文書です。生成AI(文章を自動で作る人工知能)を使えば、難しい原本を短くやさしい言葉に書き直す作業は確かに速くなります。
ただ、速く作れることと、伝わる資料になっていることは別の話です。しかも、わかりやすさは作った職員の感覚では判定できません。この記事では、AIで下書きした利用者向け資料を、配る前に30分ほどで確かめるための手順を整理します。
「わかりやすさ」は好みではなく、法に根拠のある要件
まず前提の確認です。利用者向け資料をやさしく書くことは、親切心の問題ではありません。
改正された障害者差別解消法により、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務づけられています(2024年4月施行)。合理的配慮とは、障害のある人が他の人と同じようにサービスを使えるよう、過重な負担にならない範囲で個別に調整することを指します。情報の伝え方もその対象に含まれます。
あわせて、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法という法律もあります。障害の種類や程度に応じた手段で情報を得られるようにすることを、国や事業者が進めていく方向を定めたものです。
つまり、利用者さん向けの資料を「読める形」にすることは、事業所として説明できる状態にしておくべき領域です。AIで作ったから検品が甘くてよい、ということにはなりません。むしろ、AIは「それらしく読める文章」を作るのが得意なぶん、間違いが目立ちにくいという厄介さがあります。
AIが得意なこと、間違えやすいこと
利用者向け資料づくりでAIに頼むとき、作業の性質で向き不向きがはっきり分かれます。
| 作業 | AIの適性 | 確認の重さ |
|---|---|---|
| 長い文を短く区切る | 得意 | 軽い |
| 漢語を和語に言い換える(「送迎」→「おむかえ」) | 得意 | 中 |
| 読んだ人が抱きそうな質問を洗い出す | 得意 | 軽い |
| ふりがなをふる | そこそこ | 重い |
| 金額・日付・期限を書き写す | 苦手 | 非常に重い |
| 制度名や加算名を正確に残す | 苦手 | 非常に重い |
| 「何を削ってよいか」の判断 | 苦手 | 非常に重い |
特に注意したいのが下の3つです。
数値の言い換え。AIはやさしく書こうとするあまり、「3,250円」を「だいたい3千円くらい」に変えることがあります。やさしくはなりましたが、利用料の説明としては成立しません。
ふりがなの誤り。固有名詞や事業所名、地名、人名の読みは、AIには判断材料がありません。職員の名字や施設名が違う読みでふられていると、本人に読み上げてもらったときに初めて気づきます。
削った情報の行方。「わかりやすくして」と頼むと、AIは勝手に情報を落とします。落とした内容が「キャンセルは前日17時まで」といった条件だった場合、資料としては致命的です。
資料の種類で、任せる度合いを変える
同じ「利用者向け資料」でも、間違えたときの影響がまるで違います。一律に扱わず、あらかじめ区分を決めておくと検品の手間を集中できます。
| 区分 | 資料の例 | AIの使い方 |
|---|---|---|
| 影響が小さい | 行事の案内、レクの持ち物リスト、季節のおたより | 下書きから任せてよい。職員1名の確認で配布 |
| 影響が中くらい | 送迎時間の変更、活動内容の変更、ルール説明 | 下書きはAI、事実部分は原本と逐語照合 |
| 影響が大きい | 重要事項説明書のやさしい版、利用料・工賃の説明、個別支援計画の本人向け要約、苦情解決の仕組み | 原本は人が確定し、AIは言い換え候補の提示のみ。管理者を含む複数名で確認 |
この区分は、AI生成文を外に出すときは「誰が見るか」を先に決めるという考え方と同じ発想です。読み手が特定され、かつ読み違いが生活に直結する資料ほど、人の手を厚く残します。
もうひとつ前提として、利用者さんの氏名や障害の状態、支援記録の中身をそのままAIに貼り付けないという線引きが必要です。個別支援計画の本人向け要約を作るなら、名前は「Aさん」に置き換える、固有の事情は伏せる、といった処理を先に決めておきます。この線引きの作り方はAIに個人情報を入れる前に決める5つのことで整理しています。
配る前の5つの検品
ここからが本題です。AIが出した下書きを、次の順で確かめます。A4一枚程度の資料なら、慣れれば30分かかりません。
1. 事実の逐語照合(10分)
原本とAI版を並べ、数字・日付・時刻・金額・連絡先・固有名詞だけを指でなぞって照合します。文章全体を読み比べる必要はありません。この5種類に絞るのがコツです。1か所でも違えば、その下書きは全体を疑ってかかります。
2. 音読テスト(5分)
声に出して読みます。途中で息が続かない文、読点を打つ位置に迷う文は、読み手にとっても負荷が高い文です。目安は1文40字前後、1段落3文まで。音読でつまずいた箇所に印をつけ、そこだけ直します。
3. 3つの質問に答えられるか(5分)
資料を読んだ人が、次の3つに答えられるかを確認します。
- 何をすればいいのか
- いつまでにすればいいのか
- 困ったら誰に言えばいいのか
AIが作る文章は、背景説明や丁寧な前置きが充実する一方で、この3つが文中に埋もれがちです。答えが2行目までに出てこないなら、構成を入れ替えます。
4. 削った情報の台帳をつくる(5分)
原本にあってAI版にない項目を、箇条書きで別紙に残します。そのうえで、「これは落としてよい」「これは戻す」を職員が判断し、資料の末尾に「くわしいことは、重要事項説明書の◯ページを見てください。職員にきいてもだいじょうぶです」のような参照先を必ず入れます。やさしい版は原本の代わりではなく入口である、という位置づけを明示しておくと、後の説明責任が軽くなります。
5. 読み手に近い人に読んでもらう(随時)
最後は人です。可能なら、利用者さん本人数名、家族、支援に直接関わっていない職員のいずれかに読んでもらいます。ここで見るのは感想ではなく、3の質問に答えられたかどうかという一点です。「わかりやすかったですか」と聞くと、多くの場合「わかりました」と返ってきます。「これ、いつまでにやればいいって書いてありました?」と聞いてください。
形式の落とし穴 — ふりがなと読み上げ
見落とされやすいのが配布形式です。
ふりがなをカッコ書きで入れると(例:避難(ひなん))、紙では読めますが、画面読み上げソフトを使う方には「ひなん、ひなん」と二重に読まれます。視覚障害のある利用者さんがいる場合は、紙配布用(ルビ機能や振り仮名つき)と、データ配布用(ルビなし、代わりにやさしい語に置換)を分けるのが現実的です。
また、AIに「イラストを入れて」と頼んでも、適切なピクトグラムが出るとは限りません。絵記号は既存の素材から人が選び、絵と文が同じことを言っているかを目視で確認します。
指示の出し方を事業所のひな形にする
毎回ゼロから頼むと、出てくる文章の調子がばらつきます。次のような指示文を事業所で1つ決め、全員が同じものを使うだけで、検品の負担が目に見えて減ります。
- 読み手は誰か(例:知的障害のある成人、漢字は小学3年生程度まで)
- 1文は40字以内、1段落は3文以内
- 数字・日付・金額・固有名詞は原文のまま変えない
- 原文にない情報を足さない
- 削った項目は、本文の後に一覧で出す
最後の「削った項目を一覧で出させる」は特に効きます。検品4の作業をAIに肩代わりさせられるためです。こうした指示文の標準化はAIの答えのぶれは頼み方でそろうで扱った考え方と同じで、属人化を防ぐ基本になります。
まとめ
利用者さん向けの説明資料にAIを使うこと自体は、現場の負担を減らす現実的な手段です。問題は、出力がもっともらしいために検品が省略されやすいことにあります。
- やさしい情報提供は、障害者差別解消法の合理的配慮に関わる領域であり、感覚ではなく要件として扱う
- AIは言い換えと短文化が得意、数値と固有名詞と「削る判断」が苦手
- 資料を影響度で3区分し、重い資料ほど人の手を厚く残す
- 検品は「事実の逐語照合・音読・3つの質問・削った情報の台帳・読み手に近い人の確認」の5つ
- ふりがなの入れ方は、紙と読み上げで分ける
まずは影響の小さい行事案内から、この5つの検品を1回通してみてください。どこでAIが崩れるかが自分の事業所の文書で見えてきます。その感触を持ってから、重要事項説明書のやさしい版に進むのが安全な順番です。
この記事は、AI で下書きを作り、益山康秀(運営者)が内容を確認して公開しています