「スライド10枚、AIに作らせれば30分で終わる」と思って始めたのに、気づけば2時間経っていた。生成AI(文章や画像などを自動生成するAI。ChatGPTやGeminiなどが代表例)を資料作成に使い始めた担当者から、よく聞く話です。期待したほど速くならない、むしろ手書きのほうが早かった——その感覚は錯覚ではありません。
原因は「AIの性能が足りない」ことではなく、たいていは作業の順番にあります。この記事では、AI資料作成が時短にならない3つの理由を分解し、どの順番で手を打てば効果が出るのかを整理します。明日の資料作成からそのまま試せる形でまとめました。
理由1:AIに渡す「材料」がないまま生成を始めている
最も多いのがこれです。「来期の営業方針の資料を作って」とだけ指示すると、AIは一般論を返します。自社の数字も、顧客の名前も、今期の課題も知らないからです。結果として出てくるのは「市場の変化に対応し、顧客起点で価値を提供する」といった、どの会社にも当てはまる文章です。
ここから自社向けに直す作業は、実質的にゼロから書くのと変わりません。むしろ「それらしい文章」が目の前にあるぶん、中身の薄さに気づきにくく、チェックに時間を取られます。
さらに厄介なのがハルシネーション(AIが事実でない内容をもっともらしく生成する現象)です。市場規模や業界動向を聞くと、実在しない統計や出典が混ざることがあります。総務省・経済産業省が2024年に公表した「AI事業者ガイドライン」でも、AIの出力には誤りが含まれうることを前提に、人による確認を組み込むことの重要性が示されています。
対処:生成の前に材料を集める。議事録、既存資料、実績データ、顧客からの声。これらをテキストで手元にそろえてからAIに渡します。材料集めに15分使っても、生成後の手直しが1時間減るなら十分に元が取れます。
理由2:完成形の「型」を決めずに書かせている
資料には目的ごとの型があります。社内稟議なら「現状・課題・提案・費用・リスク」、顧客提案なら「相手の課題・解決策・導入イメージ・価格」。この型を指定せずに生成すると、AIは一般的な構成を勝手に選びます。
そして出てきたものを見て「違う」と思い、指示を出し直す。この往復が時間を食います。3回目の修正指示を出している時点で、自分で書いたほうが速かったという状態になりがちです。
対処はシンプルで、先に見出しだけ人間が決めることです。見出し(スライドタイトル)を5〜8個書き出し、「この構成で、各項目を3行ずつ埋めて」と頼む。これだけで往復は激減します。構成は資料の背骨であり、ここは人が決めたほうが速く、かつ意図が通ります。
理由3:最後の体裁合わせを全部やり直している
テキストは生成できても、スライドのレイアウト、フォント、配色、ロゴの位置といった体裁は、結局手作業で整えることになります。AIがPowerPointファイルを直接生成するツールも増えていますが、社内テンプレートに沿った形で出せるケースはまだ限られます。
ここで「AIが作ったものを捨てて、テンプレートに貼り直す」が発生すると、時短効果は消えます。
対処は、AIに体裁を期待しないことです。AIには「中身のテキスト」だけを作らせ、既存の社内テンプレートに流し込む。この分業を最初から決めておけば、ムダなやり直しは起きません。
工程ごとに「誰がやるか」を決めておく
3つの理由をまとめると、AIに向く工程と向かない工程が見えてきます。
| 工程 | 主担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 材料集め(データ・議事録・実績) | 人 | 社内にしかない情報。AIは持っていない |
| 構成・見出しの決定 | 人 | 資料の目的と相手は人しか判断できない |
| 本文の下書き・言い換え | AI | 材料と型があれば速い。得意領域 |
| 要約・長さ調整 | AI | 「3行に」「半分に」が一瞬で済む |
| 図表の案出し | AI | 「この内容を表にすると」で選択肢が出る |
| 事実確認・数値チェック | 人 | ハルシネーション対策として必須 |
| レイアウト・体裁 | 人(テンプレート) | 社内ルールに合わせるのが最短 |
この表を一度チームで共有しておくと、「AIに何を頼むか」で迷う時間がなくなります。
明日から試せる4ステップ
- 材料を1つのテキストにまとめる(10分)
議事録、数字、参考にしたい既存資料の抜粋を、メモ帳に貼り付けていくだけで構いません。形式は整えなくて大丈夫です。 - 見出しを手で書く(5分)
スライド1枚=見出し1つ。5〜8個に収めます。ここは考える工程なので、AIに丸投げしないほうが結果的に速くなります。 - 材料と見出しを一緒に渡して生成(5分)
プロンプト例:「以下の材料をもとに、提示した見出し構成でスライド用のテキストを作ってください。各見出しにつき箇条書き3点、1点あたり40字以内。材料にない数値や固有名詞は補わず、不足していれば『要確認』と書いてください。」
最後の一文が効きます。AIに「知らないことは書くな」と明示するだけで、事実確認の手間が減ります。 - テンプレートに流し込み、数値だけ人が確認(20分)
特に数字・固有名詞・日付は、材料と突き合わせます。
たとえば次のような場面を想像してください。月次の営業報告スライドを毎月作っている担当者が、見出し構成を一度テンプレート化してしまう。すると翌月からはステップ2が不要になり、材料を差し替えて生成するだけになります。繰り返す資料ほど、この方式の効果が積み上がります。
社外に出す資料で気をつけること
顧客名や個人情報を含む材料をAIに入力する場合は、利用するサービスの入力データの取り扱いを確認してください。個人情報保護法(2020年改正、2022年全面施行)では、個人データを第三者に提供する際のルールが定められており、外部のAIサービスへの入力が該当するかはサービスの契約形態や利用目的によって異なります。社内規程が未整備であれば、まずは「氏名・連絡先は伏せ字にしてから入力する」といった運用ルールを一本決めておくのが現実的です。
また、前述の「AI事業者ガイドライン」(2024年公表)のように、国内でも事業者向けの考え方が整理されつつあります。詳細は各組織の最新版を確認したうえで、自社の状況に合わせて判断してください。
まとめ
AIで資料作成が時短にならない理由は、材料がない・型がない・体裁をやり直すの3つに集約されます。そして回避の順番は、この逆順ではなく素直に前から——材料を集め、型を決め、それからAIに書かせ、最後にテンプレートへ流す、という流れです。
「AIに全部やらせる」をあきらめて、「AIに下書きだけやらせる」に割り切ったとき、はじめて時短が実感できます。まずは次に作る1本の資料で、見出しを手書きしてから生成する——それだけ試してみてください。往復回数が減ることが、すぐに体感できるはずです。
この記事は、AI で下書きを作り、益山康秀(運営者)が内容を確認して公開しています